フラッシュバック

――ピンポーン!

ドアチャイムの音が聞こえる。

何度も何度も聞こえてくる。

あまりのしつこさに、耐えられなくて、

玄関に出てみると、あの運送会社だった。

制服を見ただけで、頭が痛くなった。

吐き気がした。倒れそうだった。

荷物は母に対してだった。

受け取らない訳にはいかなくて、

「あきつマイカ」とサインを殴り書いた。

それからずっと半日ぐらい倒れていた。

 

あの会社の名前を聞くと、マークを見ると、

トラックを見ると、制服を見ると、

あの時のことがフラッシュバックしてくる。

一年前まで働いた、あの運送会社。

まるであの場所に戻されたようで、

時にはめまいを起こしたり、時には吐き気を起こしたり、

時には腹痛を起こしたり、時に悪寒を感じるのである。

 

自分も時給で働いていた。

安い時給で働いていた。

みんなも時給で働いていた。

自分と変わらない時給で働いていた。

だけれど、みんなは、

子どもの用事があるから、夕飯の用意をしなきゃならないから、

友達と女子会に行くから、EXILEのコンサートに行くから、観たいテレビがあるから、

そんな理由をつけては、定時に帰っていった。

その分、あたしは働かされた。

あたしだって、書きたいことは沢山ある。

やりたいことだって沢山ある。

そればかりではない。

転職したくても、他のアルバイトをしたくても、

祖父の危篤状態でも、そして自分自身39度の熱が出ても、

すべてを潰され、働かされた。

その分、給料はすべて彼らに搾り取られた。

いつしか、朝も夜もわからなくなっていた。

電話はガンガン鳴り響き、来客は大きな荷物を沢山持ってくる。

その途中でもドライバーは容赦せず、

「こっちだって客を待たせてるんだぞ!」と叫んでいる。

すべてを一度にやっていて、頭の中はパニック状態。

それでもやらなければならないから、

心で泣きながら、必死で働いた。

やっと休める日が来ても、

ひっきりなしに電話が掛かってくる。

ほんの些細なことでも鳴り響き、

心の休息はなくなっていた。

いつしか、電話の鳴る音に怯えるようになった。

いつしか、トラックの停まる音に怯えるようになった。

次第に心は折れていった。

毎日浴びるように酒を飲み、

起きたと思えば一日が始まる。

今日も一日頑張ろうと、身体を動かそうとするのだけど、

身体のあちらこちらが痛み、会社で倒れた。

それでも、「何故サボってるんだ!」

と、方々から叫ぶ声が聞こえてくる。

「ごめんなさい」と頭を下げ、笑顔を作る。

あいつが俺たちの金を取った、

あいつが荷物を壊した、

あることないことを自分のせいにするドライバーたち。

それをかばおうとする他の事務員たち。

 

もうすべてが限界だった。

ここから抜け出したかった。

あるとき、やめたい気持ちを上長に打ち明けた。

だけれど、やめさせてくれなかった。

「お前が他の会社に就職できないようにしてやる」

「お前の家族が他の場所に住めないようにしてやる」

そんな脅し文句まで入った。

その次の日のことだった。

会社に行こうとすると、身体が勝手に動かない。

太い鉄線で、身体をベッドにくっつけられているかのように、

ベッドから出ようとしても出られない。

会社に連絡を入れ、通えない旨を伝える。

それでも会社に来いと怒鳴る上長。

もう通えなかった。

これまでのことがすべてフラッシュバックしてきては、

心を、身体を、突き刺してくる。

何もかもが苦しかった。

 

起きられなくて、119の通報をかけた。

病院の人に話をしたら、別の小さな病院を紹介してくれて、

そこでお薬を出してもらうとともに、診断書を書いてくれた。

あたしはそのとき、やっと病気だったんだって気付いた。

そこでようやくやめさせてもらえたが、

毎日あの運送会社のトラックが停まっていて、

「連れ戻しに来たよ」としつこく言い寄ってきた。

あの時のことが、またフラッシュバックしてくる。

更に、連れ戻されそうになる。夢にまで出てくる。

夢の中まであの会社に追いかけられる。

外に出ると、密告される。今度は殺される。

アンネ・フランクのような生活が、長い間続いた。

あれから一年が経ち、

病気はほぼ治り、別のパートで事務をしている。

だけれども、あの会社に対する感情は、

今でも変わっていない。

あの会社の名前を聞くと、マークを見ると、

トラックを見ると、制服を見ると、

あの時のことがフラッシュバックしてくる。

そして、連れ戻されそうになる。

一年前まで働いた、あの運送会社。

まるであの場所に戻されたようで、

時にはめまいを起こしたり、時には吐き気を起こしたり、

時には腹痛を起こしたり、とにかく悪寒を感じるのである。

(2013年6月19日)

※6月19日の旧ブログに書いたものを、改めてここに載せます。

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